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特別支援学校におけるABA

●桜子先生

カナダ帰りのABAのスペシャリスト。BCBA-Dという最上位ランクのABA資格を持つ。


●有山(ありやま)さん

特別支援学校(中学校1年生)の教師。指導している生徒みきちゃんが最近自分を叩くようになり困っている。何かいい方法がないか模索中。



特別支援学校(中学校1年生)での困りごと


うちのクラスのみきちゃんは、入学した頃は、授業でも、なんでもおとなしく参加できた子だったんですけど、最近学校に慣れてきたのか、先生の顔を見ながらニヤニヤして、叩いてくるようになってしまったんです。そればかりか、朝の日直も拒否するようになって来て、廊下に寝転がったりして。みきちゃんの好きなことで誘ったり、笑顔で呼んで待っていても、ゴロゴロしてばかりでどんどん参加できなくなってきています。お母さんにも同じように叩くようになってしまったようで、どうしたらいいのでしょう。

精神科の先生は「思春期だからいろいろありますよ」とおっしゃっています・・




それは大変ですね。まず第一に行動分析学では、その精神科のお医者さんがおっしゃっているような、思春期のせいとか、生徒の性格のせいだとか、その子の内面のせいにはしないのです。

推測しても内面のことは測定不可能なので取り扱わず、測定ができる目に見えている現象だけで判断するのが行動分析学です。

行動は手段を検討すれば、どんなケースでも改善することができます。



どうして人間は「行動」するのか


まず、なぜ人間は「行動」するのか考えてみましょう。

いま有山さんは私のところにいらっしゃいましたね。有山さんの「桜子先生の所に行く」ということが行動です。

​なぜ有山さんは私の所にいらっしゃったのでしょう?





えっと‥みきちゃんやクラスの生徒さん達の行動をよくできたらと思って来ました。改善させなきゃいけないけど、悪化するばかりだし‥。他の先生たちも、「有山は指導がまずいな」と思っているみたいなのでそれもしんどいし、悔しいです。でもどうしていいかわからなくて。なにか、ヒント、アイディアが欲しいからです!





素晴らしいですね。では「今忙しいのでこれでおしまいです」と今私が言ったら有山さんは、また私のところに来ようと思うかしら?



えっ、もうおしまいですか? 今さよならしたら、何にもヒントをもらわずに帰ることになるんですけど‥ちょっと無駄足だと思ってしまいます。次に来るモチベーションは下がりますね。




じゃあ、これから、ヒントや理論を存分に教えて、生徒も改善したら?



生徒が改善する方法を教えて貰えるのであれば、もちろん桜子先生の大ファンになりますよ!桜子先生がどこで講演をされても、飛行機とって、田中先生のご講義を受けますよ!!

今の自分にとって、みきちゃんを始めクラスの混乱は、最大の悩みですもの。さらにクラスがうまくいったら、それだけで嬉しいです。夢のようでしょうね。



行動を増やす/減らすメカニズム:三項随伴性


それでは、今の有山さんの状態を表にしてみましょう。

​結果(C)が変わると行動がどうなるかがポイントです





結果(C)が違うと、それが行動の増減に影響しています。



その通りです。

人間は、行動の後の結果(C)によって、その行動を増やしたり減らしたりしているのです。

これが行動分析学の最も基本で、三項随伴性と呼ばれています。行動分析学の父と呼ばれる、スキナー博士の1番の大発見と言われています。



三項随伴性を使用し適切な行動を増やそう:強化


まずは生徒さんの行動をしっかり見てあげましょう。

生徒さんが授業中しっかり座って学習に取り組めていたり、掃除の時間に掃除をしたり、適切な行動をしていたら、これからもその行動が出来るよう伸ばしてあげたいですよね。

そんな時はわざと大げさに褒めたり、ちょっとしたおもちゃを貸してあげるなど、生徒さんにとって嬉しいことをしましょう。そうすることによって、その行動は増えて行くと考えられます。この行動を増やす働きかけのことを強化、行動を増やすもの(褒め言葉やおもちゃ)のことを強化子と言います。




わざと大げさに褒めたり、おもちゃを貸してあげたりするのですか?ちょっとわざとらしい気がしますし、学校なのでおもちゃを渡すことは難しいです。




強化子はその生徒さんと状況において適切なものであればいいのです。おもちゃを渡すのが難しいのであれば、良い行動1回につきシールを1枚あげて、10枚貯まったら給食のデザートのおかわりを出来るシステムにするとか。これはトークンと言います。ABAは北米の学校では普通学級にも特別支援学級にも普及してきていて、教育委員会でも使われるようになってきています。これにより生徒さんの能力が伸びるという研究結果が出ています。



三項随伴性を使用し困った行動を減らそう:弱化(罰)


逆に生徒さんが、体育の時間が嫌でグランドから逃げ出してしまったとしますよね。この場合は、ペナルティとしてやりたくないお掃除をしないといけないというようにします。行動の後(C)に嫌なことがあるということで困った行動は減って行くと考えられます。この行動を減らす働きかけのことを弱化、行動を減らすもの(掃除)のことを弱化子と言います。

ただし、叩いたり、無理やり腕立て伏せをやらせたり、給食を与えないなど不適切な弱化は生徒さんの健康を損なう危険性をはらんでいますし、そうでなくても心理的トラウマを残す可能性があります。今回は説明のために例を出しましたけれど、基本的には行うべきではないものと理解してください。



良かれと思っての介入と体罰は表裏一体ですものね。はい、弱化は基本的には使用すべき出ないと理解いたしました。



消去と代替行動という手法を用いて、困った行動を減らして行きます。後ほど解説しますね。



行動の理由を理解しよう:行動の機能分析



行動には大きく分けは獲得・逃避・自己刺激・注目でという4つの機能があります。例えば、獲得は校庭で遊びたくて始業時間前に登校する、逃避は宿題のプリントをやりたくなくてわざとプリントを捨ててしまう、自己刺激は退屈な時のペン回し、注目は先生に声をかけてもらいたくてわざと牛乳をこぼす、などです。

有山さんの「桜子先生の所に行く」という行動に話を戻しましょう。この行動の機能は何でしょうか?




「うまくいかないクラス」があって、「田中先生のところに行く」という行動でした。その目的は解決策が得られること、つまり「獲得」です。



その通りです。獲得に加えて、うまくいかないクラスから逃げる=逃避もあるでしょう。行動の機能は1つだけとは限らず、複数ある場合もあります。ただ、中心となる行動の機能を理解することが解決の糸口となりますので、まずは有山さんがおっしゃったように獲得、と理解しましょう。




​オペラント行動と刺激性制御


私が有山さんの質問に答えるだけでなく、意図的に「存分に理論を教えて解決に導く」とか、「大げさに褒め」たりして強化した場合、有山さんはきっとまた私のところへ来てくださるでしょう。

結果的に「うまくいかないクラス」があると「田中先生のところに行く」ということが行動として身についていきます。このように、強化によって行動が習慣化することをオペラント行動と言います。

「田中先生のところにいく」という行動は、「強化」されることによって「うまくいかないクラス」という刺激の制御下に置かれた(刺激性制御)、とも表現します。






困った行動の減らし方


それでは本題のみきちゃんの例に入っていきましょう。三項随伴性の表を作成するとこうなります


行動の機能を考えて分析すると私たちが行動を減らそうとしてしたことが全て裏目に出ていますね。むしろ困った行動を強化してしまっていますね。



その通りです。みきちゃんの場合、行動の機能は「注目」が中心です。だからたとえ怒る、注意するという行為であっても、みきちゃんに注目をしてしまってはみきちゃんを喜ばせる=強化してしまっているということになっているのです。



困った行動を減らす 消去


では、注目をしないということで、叩いて来ても無視して逃げれば良いのでしょうか?



逃げたら逃げたで、追っかけっこみたいになって、それはそれで喜ばせてしまう、つまり強化してしまう可能性があります。

いろいろな方法があるけれど、基本的には、表情を変えずに叩いて来た手を持って叩かせないようにして、視線をみきちゃん向けない。(問題行動に注目しない)

そして、先生は自分の仕事をしたり、むしろ他の適切な行動をしている生徒との関わりを自然な活動をし、60秒ほど彼女がそこにいないかのように振る舞います。

良いことを与えない=強化しないことで行動を減らしていくこの方法を消去と言います。



​一度困った行動は増える? 消去バースト


今のみきちゃんを考えると、もっと強く叩こうとしてくように思います‥



その通りです。今まで叩くという行動で注目が得られていたのに得られない状況になってしまった場合、注目が欲しくてその行動が一時的に増えてしまうことがあります。これを消去バーストと言います。

ただ、どんなに叩いても注目を与えないということを徹底していると、叩いても求める結果が得られないということを学習し、次第に叩くという行動は減っていきます。

​ここで大切なのは、しつこく叩いてきたからといって、根負けして注目を与えてしまってはいけないということ。激しく叩くと注目してもらえるという結果を得てしまったら、叩くという行動がさらに増えてしまいます。





なるほど。やるからには徹底して、が大切なのですね。



その通りです。そして、親御さんや同僚の方にも行動の原理となぜこのようにしているのかを説明しましょう。せっかく有山さんがみきちゃんの叩くという行為を消去しても、誰かがみきちゃんの叩くという行為に対し注目をして強化しまうと、みきちゃんの人を叩くという困った行動は続いてしまいます。情報共有をして、みきちゃんに関わる大人がみんな一貫して同じ態度を取ることにより、困った行動を効率よく減らしていくことが出来ます。



情報共有大切ですね。みんなで一緒に取り組んでいこうと思います。



​困った行動の代わりになる行動を教えよう

代替行動分化強化(DRA)



行動分析学は非常にパワフルで、消去を行うと困った行動は減っていきます。

でもこれだけではみきちゃん可哀想だと思いませんか?みきちゃんは本当は、大人を叩きたいのではなく、大人に構ってもらいたいのです。



そうですね‥叩くのをやめさせたいというのは大人の都合であって、それを無理矢理やめさせることによって、みきちゃんに寂しい思いをさせてしまいますね‥



その通りです。みきちゃんの大人に構ってもらいたい、と言う気持ちを無視して良い訳がありません。叩くという行動をやめさせる代わりに、しっかりみきちゃんの構って欲しいと言う気持ちを受け止めてあげる必要があります。

​有山さん、どんな生徒さんによく構ってあげていますか?



もちろん全ての生徒を平等に扱っているつもりですけど、「先生遊ぼう!」と懐いてきてくれる生徒はやっぱり可愛いですし、つい構ってしまいます。



そこがポイントです。「先生遊ぼう!」とみきちゃんが言えればいいのです。

みきちゃんそろそろ叩いてきそうだな、でもまだ叩くという行動をしていない普通にしている時に、有山さんが「先生遊ぼう、って言ってごらん」と正しい行動をする手助けをします。

そしてみきちゃんが「先生遊ぼう」と言えたら、思いっきり褒めて一緒に遊んであげましょう。

この「先生遊ぼう、って言ってごらん」と言う正しい行動を引き出す助けのことをプロンプト、困った行動の代わりになる行動を教えて強化することを代替行動分化強化(DRA)と言います





良い行動をしているときに褒めよう 

他行動分化強化(DRO)


​他にも困った行動を起こらないようにする様々なテクニックがあります。

​有山さん、普段はみきちゃんにどのような声かけをしてあげていますか?



みきちゃん、たまに叩いたり、寝そべったりする以外は基本的にはいい子なのです。授業中も静かに授業を聞いていますし、プリントもしっかり自分で出来ます。ですので、あまり声かけが必要なことはないですね。



それは勿体無いですね。せっかくみきちゃんが静かに座って授業を聞く・一人でプリントを仕上げる、と言う良い行動をしているのに、褒めてあげていないということですね。

床に寝っ転がらずにちゃんと椅子に座っているときは「ちゃんと椅子に座れているね」と声をかけをする、一人でプリントに取り組めている時には「頑張っているね」と声をかけをしましょう。

​そうすることにより、注目されたいという欲求が満たされ、叩いて注目を得ようというモチベーションが下がります。これを他行動分化強化(DRO)と言います。





こうすればみきちゃんも注目してもらえて嬉しいし、叩く必要がないから叩かなくなりますね。

​消去だけでなく、手助け(プロンプト)しながら適切な行動を教える代替行動分化強化(DRA)、そして困った行動をしていない時にこそ積極的に褒める他行動分化強化(DRO)やってみます!



ぜひやってみてください。叩いたり噛んだりという他害行動があると、学校を卒業して社会に出る時の選択肢を大きく狭めてしまいます。体が大きくなって大人が力で勝てなくなると消去やプロンプトも難しくなります。応用行動分析はどんな障害・年齢の方にも使えますが、お子さんの年齢が小さければ小さいほど効果が出やすいですよ。




環境を整えることで困った行動を起こりにくくしよう


有山さんのクラスで、生徒さんの問題がを繰り返す起こする時期と、ほとんど起こらない時期があたりしますか?




あります。夏は暑いので、どうしても生徒さんはダラダラしがちです。窓から風が入ってくるので壁側が涼しいのですが、壁にくっついて離れない生徒さんもいます。

あと、たまに朝ごはんを食べてこない生徒さんがいるのですけど、食べてこない日は11時頃になるとイライラして廊下に出てしまうので食べてきたかどうかすぐにわかります。




なるほど、そんな時は有山さんはどうされていますか?



気温や湿度が高くなると天気予報で出ている日は朝からクーラーをつけています。

​朝ごはんを食べてこないお子さんのご両親には、食べてこない日のお子さんの様子をお伝えして少しでも良いから食べてくるようお願いしています。前もって対応できた時はクラスがスムーズに進みます。




素晴らしいですね、有山さんのされている環境調整は応用行動分析では非常に大切な要素と考えられています。

環境調整は三項随伴性の前にくるもので、環境を変えることによって行動の起こりやすさを変えることを先行条件操作を言います。






先行条件で操作したことに関しては、望ましい行動が増えやすくなるということですね。



その通りです。もちろん全ての部屋にクーラーをつけるわけにはいかないなど事情はあるとは思います。でも学習習慣が身についていない生徒さんであればあるほど最初はクーラーがついているなど集中しやすい環境で取り組んで、学習習慣が身についているお子さんは少し暑い部屋での学習に挑戦するなど、使い分けるといいですね。



応用行動分析(ABA)の国際資格RBT


日本では応用行動分析の認知度は高くなく、現時点では健康保険など公費の対象になっていません。

私が働いていたカナダやアメリカでは、ABAの研究が盛んでABAによってIQ、言葉、社会性が伸びるというデータが数多く出ており、自閉症のお子さんは公費でABAをうけられるほど評価されいます。小学校入学前の早期療育がもっとも研究が盛んですが、普通学級・支援学級関わらず義務教育の現場でも多く取り入れられてきています。

私は日本でABAの正しい知識が広まるようにABAの国際資格であるRBTの資格取得セミナーや、親御さん教育関係者さん向けのセミナーを行なっています。

​是非さらにABAを学び、実践してみてください。



学んだことを早速実践してみます。桜子先生、ありがとうございました。



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